全国においては、男性の死亡数と年齢調整死亡率はどちらも女性の5~8倍程度多い。北海道でも、例年、男性の死亡数は女性の5~6倍となっている。これは、食道がんの危険因子が飲酒や喫煙であるためと考えられる。小樽市・釧路市・函館市・室蘭市など、港町で高いことが目立った。北海道全体としての女性のSMRは、全国並みであったが、対象とした10年間で、全く食道がんで女性が死亡しなかった町村も少なくない。今回、食道がんの男女総合のSMRは、第4巻と比べ、10ポイント以上低下した(表3)。
全国においては、胃がんの年齢調整死亡率は、男女とも、ここ数十年、一貫して減少しているが、死亡数は男女合計年間5万人程度で、さほど変化していない。胃がんは長らくわが国における部位別悪性新生物死亡数の首位を占めてきたが、男性では1993年(平成5年)に肺がんに、女性では2003年(平成15年)に大腸がんに、それぞれ抜かれた。2009年(平成21年)現在、男性で2位、女性で3位となっている。食生活の洋風化、冷蔵庫の普及による塩蔵食品摂取の減少、医療技術の進歩、検診による早期発見・早期治療などが胃がん年齢調整死亡率の減少に寄与していると考えられるが、最近、ヘリコバクター・ピロリ菌が胃がんの発症に関与していることが確実となってきた。除菌治療などが、将来の胃がんの死亡率の推移に影響を与えるかもしれない。
北海道は、男女とも、全国より有意に低かった。特に、札幌市とその周辺の市(江別市・北広島市・恵庭市)などで低いことが目立った。
「大腸がん」は「結腸がん」と「直腸S状結腸移行部及び直腸がん」を合計したものである。わが国の大腸がんによる死亡数は男女とも、ここ数十年、一貫して増加している。2009年(平成21年)において、男性では部位別悪性新生物死亡数の3位、女性では1位となっている(ただし、年齢調整死亡率は、男女とも、1990年代半ばをピークとして、減少している)。大腸がんは元来、欧米人に多いがんである。しかし、戦後の日本人の食生活の洋風化による動物性食品・動物性脂肪等の摂取の増加に伴い、大腸がんも増加してきた。2008年(平成20年)のわが国の「結腸がん」と「直腸S状結腸移行部及び直腸がん」の粗死亡率は、男女とも、2005年の米国のそれぞれの粗死亡率を上回っている。
北海道は、男女とも、大腸がんのSMRは有意に高かった。特に人口の多い市(函館市・小樽市・旭川市・札幌市)で高いことが目立った。北海道民の動物性食品摂取量が全国より多いことが関与していると思われるが、大腸がんのSMRは本シリーズ第2巻(1983年~1992年)以来、全国より1割程度高い状態が続いている(表3)。北海道の女性の部位別悪性新生物死亡順位において、大腸がんが初めて1位になったのは1997年(平成9年)のことであり、これは全国の2003年(平成15年)より6年早い。ただし、肺がんの項でも述べるが、2006年(平成18年)以来、本道女性のがん死亡の1位は肺がんとなっている。
肝臓がんの90%近くは、B型肝炎ウイルス(HBV)あるいはC型肝炎ウイルス(HCV)の感染が原因とされている。1980年代半ばから進められているB型肝炎母子感染防止事業はきわめて効果的であり、現在、わが国におけるキャリアの新規発生は年間数百件程度まで低下したとされている。数十年後には、HBVを原因とする慢性肝炎・肝硬変・肝臓がんはほとんどなくなると考えられている。HCVには、目下、有効なワクチンはないが、輸血などの血液感染が主であるため、厳重な対策が取られている現在の状況から考え、HCVによる慢性肝炎・肝硬変・肝臓がんも長期的には低下に向かうであろう。
北海道の肝臓がんのSMRは男女とも80%程度で、ここ数十年、この状態が維持されている。市区町村のほとんどは100未満で、かつ有意に低いところも多かった。ただし、数十年前の注射器の使いまわしにより、ウイルス性肝炎の感染が拡大したと考えられている自治体においては、肝臓がんのSMRも高かった。
胆嚢がんは全国レベルでは、死亡数が増加しているがんである(年齢調整死亡率は1990年代半ばから減少傾向)。北海道全体としては、男女ともSMRは有意に高かった。今金町、鹿追町、池田町などは有意に低かったものの、全体としては道南と道東で高かった。保健所別にみると、有意に低いところはなく、ほとんどでSMRは100を超えていた。
一般に、ほとんどの病気は男性に多いが、胆嚢に関係する疾患や甲状腺の疾患、自己免疫疾患は女性に多い。北海道においても、全国同様、胆嚢がんによる死亡数は女性が男性より多かった。
全国レベルでは、膵臓がんは、死亡数も年齢調整死亡率も、男女とも依然として増加が続いており、2009年(平成21年)には男性では部位別悪性新生物死亡数の5位、女性では4位であった。
北海道全体としての膵臓がんの男女総合の粗死亡率は、都道府県の中で1・2を争う高さであるが(2009年は秋田県に次いで僅差で2位)、今回も、SMRは全国の約25%増であった。本シリーズ第2巻(1983年~1992年)では3割増であったから、多少は全国平均に近づいたことにはなる(表3)。しかし、2009年(平成21年)の時点で膵臓がんの女性における部位別悪性新生物の死因順位が3位となっている都府県はないのに、本道では3位であって(表2)、これは北海道の膵臓がんによる死亡がいかに多いかを示すものである。
人口の多い市において、高いSMRを示したところが多かったが、比較的人口の少ない町村においても、有意に高いSMRを示したところは少なくなかった。膵臓がんも大腸がん同様、食生活の洋風化の影響が強い。北海道において、大腸がんと膵臓がんのSMRが高いことと、動物性食品の摂取が全国より多いこととは、浅からぬ関連があると考える。
わが国の肺がんの死亡数は、ここ数十年、男女とも単調に増加し、2005年(平成17年)現在男性では部位別悪性新生物死亡数の1位、女性では3位となっている。ただし、年齢調整死亡率は男女とも、1990年代半ばをピークとして、減少している。男性の喫煙率は、1970年(昭和45年)前後には80%近かったが、以後漸減して、2009年(平成21年)には38.9%となった(日本たばこ産業による)。女性も、1970年(昭和45年)前後には15%以上であったが、2009年(平成21年)には11.9%となった。喫煙率の変化と肺がん死亡率の変化は、30年程度の間隔を置いて連動するとされているが、特に男性の状況は、これに良く当てはまる。2008年(平成20年)から、本人確認をすること等により未成年者がたばこ自動販売機を利用しにくくする方策が採られることになった。また、2010年(平成22年)10月から、税率引き上げのため、たばこの価格が急激に上昇した。今後の喫煙率の動向が注目される。
北海道全体としては、男女とも有意に高いSMRを示していた。海岸に位置する市である紋別市・釧路市・室蘭市・稚内市・苫小牧市などで高く、内陸に位置する名寄市・北広島市・恵庭市・富良野市などで低かったが、この特徴は以前より見られているものである。男女総合では、全国より1割前後高い状態がここ数十年続いている(表3)。
2009年(平成21年)の女性の部位別悪性新生物の死因順位で、肺がんは、全国で2位だったのに、本道では1位だった(表2)。これは、2006年(平成18年)に肺がんが大腸がんを抜いてトップに立って以来、続いていることである。北海道の喫煙率は、男女とも、例年、全国より5~8ポイントほど高く、これが北海道の肺がんの死亡率の高さに関与していることは確実である。
今回も「乳がん」は女性のみを対象とし、ごく少数ながら認められる男性乳がんは計算から除外した(本道では、例年、1~5人程度の男性が乳がんで死亡している)。乳がんは、大腸がんや膵臓がんと同様、国民の食生活の洋風化が寄与していると考えられる。全国レベルでは、死亡数も年齢調整死亡率も、単調な増加が続いており、女性の部位別悪性新生物死亡数では、2008年(平成20年)現在、膵臓がんに次いで5位となっている。ただし、女性乳がんは比較的若年から発症する場合が多いため(罹患率は40歳台が最高)、年齢調整死亡率としては大腸がんに次いで2位となる。
乳がんも欧米人に多いがんである。2005年(平成17年)の米国の乳がんの粗死亡率は女性人口10万対27.3、フランスは36.1であったが、2008年(平成20年)のわが国は18.3であった。
今回も北海道全体としてのSMRは全国より約5%高く、人口の多い市のSMRが高いことが目立ったものの、北海道全体あるいは各市区町村のSMRを膵臓がんと比較すると、「おとなしい」印象を受ける。
わが国では、子宮がんの年齢調整死亡率は低下が続いており、2009年(平成21年)には女性の部位別悪性新生物死亡数の8位となっている。死亡数は、ここ30年近く、5,000±500人程度の状態が続いている。
子宮がんには体がんと頸がんが含まれるが、これらの危険因子は別である。例えば、早婚は頸がんの危険因子であるが、晩婚や独身は体がんの危険因子である。本来、これらは別々に集計すべきところであるが、今回の集計では、前回と同様、「部位不明」の例が少なくなく、かつ体がんと頸がんを別にすると、ほとんどの市町村で、いずれの死亡数も0または1桁となって評価が困難となるため、「子宮がん」に一本化した。それでも調査対象の10年間で、大部分の町村において死亡数は1桁に留まった。北海道全体としてのSMRは有意ではなく、全国並のレベルであると考えられた。
わが国の多くの市町村で、2010年(平成22年)から2011年(平成23年)にかけ、頸がんの原因とされるヒトパピローマウイルス(16・18型)に対する予防接種が、中学生など特定の対象者について無料化された。将来、頸がんによる死亡はさらに減少するものと推測される。
腎不全による死亡の約6割は慢性腎不全によるものである。北海道全体の男女総合としてのSMRは全国の3割増で、有意に高いという結果であった。多くの市のSMRが有意に高く、中には200前後、つまり全国の約2倍の死亡率を示しているところもあった。北海道における腎不全による死亡は、以前より多く、粗死亡率を都道府県別に見ても、屈指の高さ(2009年現在で6位)となっている。なぜ北海道に腎不全による死亡が多いのかは明確でない。市部に高いところが目立ったのは、長期にわたる治療のため、透析施設を有する病院がある市へ転居する患者がいるためかも知れない。また、人工透析開始の理由で最も多いのが糖尿病であり、かつ北海道の全人口における糖尿病の患者の割合は全国より高い(例えば、2005年の患者調査による北海道の糖尿病の総患者数は外来・入院合計で122,000人で、人口千対21.7人となるのに対し、全国では2,371,000人で、人口千対18.6人となる)。このことも北海道の腎不全のSMRの高さに寄与しているのかも知れない。
肺炎は、19世紀末のわが国では、死因順位の1位であった。その後、胃腸炎や結核に首位の座を明け渡したが、戦後しばらくは、乳児の死因として重きをなしていた。現在、乳児を含む若年者が肺炎で死亡することは、きわめて稀となった。その一方で、高齢者の死因としての肺炎は、依然として大きな問題である。わが国において、2009年(平成21年)現在、肺炎死亡数は男女を合わせると4位であるが、男性では、2008年・2009年には脳血管疾患より多く、3位となっている。高齢化の進展に伴い、今後、男女総合でも3位の脳血管疾患を抜く可能性はある。
北海道全体としてのSMRは有意に低かったが、市の中でも高いところと低いところが混在しており、一定の傾向は見られなかった。
虚血性心疾患には、心筋梗塞や狭心症が含まれ、欧米人に多い疾患とされる。男性の虚血性心疾患の人口10万対粗死亡率は米国で159.0(2005年)、ドイツで174.2(2006年)であったのに対し、2008年(平成20年)のわが国は68.6であった。なお、フランスは77.6(2005年)と、欧米諸国の中では例外的に低く、むしろわが国に近い(いわゆるフレンチ・パラドックス)。これに対しては、フランス人は日常ワインを飲用しており、その中に含まれているポリフェノール(ベンゼン環に複数の水酸基が結合した化合物)が動脈硬化を抑制していると考える説もある。虚血性心疾患の危険因子として、喫煙・高血圧・A型性格(Aggressive 攻撃的、Active 活動的、 Angry 怒りっぽい、Ambitious 野心的)などが挙げられている。
興味あることに、北海道全体の虚血性心疾患のSMRは、ここ20年ほど、一貫して低下している。北海道のSMRは、男女とも、本シリーズ第2・3巻に示される如く以前は有意に高かったのに、男性では第4巻(1990年~1999年)において、女性では第5巻(1993年~2002年)において、それぞれ有意差が消失した。その後、男性は第5巻で、女性は第6巻で、それぞれ有意に低くなった。男女総合では、およそ2000年を境にして、有意に高い状態から低い状態となったことになる(表3)。
なぜ長期的な減少傾向が男女ともに存在しているのか、今後調査すべき課題である。1996年(平成8年)から2008年(平成20年)までの「患者調査」の資料の中の虚血性心疾患の推計患者数を見ても、全国こそが減少傾向にあるのに、北海道では一貫した減少傾向がないなど、北海道の虚血性心疾患のSMRに見られる減少傾向の説明は容易ではない。
都会型の生活様式は、そうでない生活様式より、虚血性心疾患のリスクを高めるという説もあるが、札幌市など人口の多い市では低いところも多く、今回の結果を見る限り、この説は必ずしも当てはまらないようである。ただ、札幌市においては、救急体制が次第に整備されてきており、2002年(平成14年)と2005年(平成17年)の医療施設調査によれば、面積1,000km2当たりの3次救急病院数が3.12であって、札幌市以外の北海道が0.07であるのに対し、相当に恵まれた状況にあり(西、出火100件当たりの死者数と救急病院数との関連性、近代消防、2011;49:91-93)、札幌市は全道人口の約3分の1を占めることから、札幌市における救急医療環境の整備が進んでいることが、北海道全体の虚血性心疾患の死亡を低下させている一因かも知れない。
北海道は、交通事故による死亡が47都道府県中で1・2位の状況が続いている。今回も、北海道全体としてのSMRは有意に高かった。有意に低かったのは札幌市と函館市だけであった。道東の市町村で高い傾向は依然続いている。
「不慮の事故」に含まれるのは「交通事故」、「窒息」、「不慮の溺死及び溺水」、「転倒・転落」、「煙・火及び火炎への曝露」、「有害物質による不慮の中毒および有害物質への曝露」などであるが、交通事故は「不慮の事故」の3割程度を占めているため、今回も前回に引き続き、交通事故を除いたものを提示した。北海道全体としてのSMRは、有意に低かった。
わが国の年間自殺死亡数は、ここ10年ほど、30,000人前後となっているが、バブル経済崩壊後の経済不況を反映して、50歳前後の男性の自殺が特に多くなっている。
本巻における数字、つまり2000年(平成12年)~2009年(平成21年)の10年間の北海道における自殺による死亡数は、男性10,658人、女性4,055人と、これまでの本シリーズ中、最多で(男性SMR・男女総合SMRはどちらも第2巻が最高)、第6巻の数字より男女ともさらに増えた。男性のSMRは、北海道全体としては依然として有意に高く、特に赤平市・美唄市・岩見沢市などの旧産炭地では概して高いことが目立った。
悪性新生物は1981年(昭和56年)からわが国の死因順位の1位となっている。2009年(平成21年)の死亡数は344,105人で、死亡総数(1,141,865人)の約30%を占める。わが国の悪性新生物の部位別の頻度は、戦後、欧米諸国に近づいた。胃がん・子宮がんが減少、肺がん・大腸がん・乳がん・膵臓がん・前立腺がんが増加した。ところが、肺がんと大腸がんの年齢調整死亡率は1990年代半ばをピークとして、前立腺がんは2000年(平成12年)をピークとして、いずれも低下してきた。これに対し、乳がん・膵臓がんはまだピークを迎えてはいない。
北海道では、男女ともSMRは有意に高かった。都市部で高いことが目立った。ただし、その中身、つまり北海道民の部位別のがん死亡は、特に女性の場合、全国とはかなり異なっている。表2に2009年(平成21年)の部位別悪性新生物の死亡順位を示すが、本道女性は、全国と比べ、肺がん・膵臓がんが多く、胃がんと肝臓がんが少ないことがここからもわかる。男性の順位は、全国と同じであったから、本道の女性の悪性新生物による死亡の状況の特異性が際立つ。
心疾患は、心臓の病気で死亡した例のみを表しているのではない。心不全が心疾患の中にかなりの割合で含まれるからである。人間が死ぬ際は、すべて心臓が機能しなくなるのであるから、心不全は理論的には死因として間違いではなくても、元々の疾患が何であったかを明らかにできなくなるという点において、使用すべきではない診断名である。ところが、心疾患死亡数の消長を左右するのは、実は心不全の多寡である。1994年(平成6年)に、死亡診断書に疾患の終末期の状態としての心不全を使用しないこととされたため、この年から心疾患による死亡数が激減し、1995年(平成7年)には、脳血管疾患が死因順位第2位となり、心疾患は3位となったのである。ところが、その後、再び心不全が増加し始め、それと平行して心疾患死亡も増加して、1997年(平成9年)以降、死因順位の2位となっている。2009年(平成21年)の死亡数は180,745人で、死亡総数の16%を占める。
北海道全体としてのSMRは男女とも、全国よりやや高かった。虚血性心疾患が男女とも有意に低かったのとは対照的である。市区町村別に見ても、心疾患のSMRの高低と、虚血性心疾患のSMRの高低は、必ずしも一致しない。地域により、心不全と診断される傾向が異なるためと考えられる。
脳血管疾患は、現在わが国の死因順位の3位となっている。2009年(平成21年)の死亡数は122,350人で、死亡総数の10.7%を占める。最近は、脳血管疾患死亡の中に占める脳内出血の割合は減少しており、脳梗塞の割合が多くなっている。
北海道では、男女ともSMRは有意に低かったが、道東、特に十勝平野に位置する市町村で低く、道南で高い傾向は、以前から続いている。また、札幌市・旭川市・帯広市・江別市・北広島市などで低い一方、紋別市・室蘭市などでは高く、市の間での差は大きかった。